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虫の季節

虫の季節がひからびた
標本の中
小さい方から大きい方へ
順番に展示されていた
虫の季節は変わりやすいが
いちど
むしぴんでおさえつけられたら
とまってしまった
ときにあらがうことなく
静かに並んだままなのだった

昆虫のひみつをにぎったように
昆虫の世界展の受付では
女の人が繭を手渡していた
これで何かを作ってください
と彼女は言った
こどもたちは少し切れ込みの入った
白い抜け殻を覗き込み
その中にすこし小さなまゆを押し込んでいた
空洞の中の空洞
そこにはむしはもういない

それから
こどもたちは
色紙と型紙をもらって
てんとう虫を形作っていった
触覚と足の割れたところは
ぴんとはりつめたままで
平面にのこされた青い影となり
ちいさなビニール袋に挟まれて
夏の記憶をあおあおとくりぬいていく

昆虫の世界の出口では
女の子が運命の輪をころがすように
糸車を廻していた
水に浮かんでは沈められている
蚕のはしっこから糸が絡めとられていた
蚕は糸を吐きながら
絡めとられた糸をたぐりよせようともせず
夜店で売られているよーよーのように
ゆるゆると上に下にとはねまわって遊んでいるようにも見えた

外の世界に出てみれば
道路がゆがんで見えるほど
うだるような真夏日の海のような
照り返しのなか
玄洋の海だけは蜃気楼のように
たちどころもなく
なくなっていた
古いライトバンが屋台のリアカーをひきながら
十字路の向こうを走っていたが
暑さにやられたのか 夏にやられたのか
さっきみたむしぴんに押されたの虫のように
動かなくなった

ぴんでさしたのは
いったい
だれなのだろうか
by akikonoda | 2009-08-22 23:03 |
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