蝉が夕方になると急にベランダに特攻隊のように攻めて来るようになった
すぐ近くの公園では こども達が虫取り網を持って
木肌に張り付いたものを狙っていた
まっすぐな茶色い魚の骨のようなベンチの近くでは
坊主頭にざんぎりにのびのびのかみをした
中学生くらいの男の子達が三人
腹を見せて飛べなくなった蝉を紙コップの中に閉じ込めていた
それから ひとりが 携帯を構えてへらへらしていると
もうひとりがなにかをその紙コップの中に投げ込んだ
蝉は爆竹が一啼きすると 紙コップと捲れ はじけだした
紙コップは いのちを吹き込まれる電気ショックを受けた紙人形のように
空洞の腹をみせつけながら反時計回りに転がりまわった
携帯を持った男の子は 今撮った蝉の亡骸を
友達とその一瞬を一緒に見ながら
暑さにやられたみたいに蝉時雨のようにわらいだした
なにをやっているのと
虫取り網を持ったちいさな子たちがやってくると
三日の命の蝉をさがしに木肌を見やっていたざんぎり