各国中銀の円売り介入実施

外為・株式:円一時76円25銭 日本経済「三重苦」 国内「空洞化」加速も

 ◇日本経済「三重苦」--大震災・原発危機・円最高値
 17日の外国為替市場で円相場が一時、1ドル=76円25銭に急伸し、戦後最高値を約16年ぶりに更新したことで、東日本大震災と福島原発事故という危機に直面する日本経済に新たな不安材料が加わった。景気が一時的に停滞する「踊り場」からの脱却が視野に入っていたのが、一転して「三重苦」を抱えた。輸出企業を中心に危機感が一段と強まっており、円高が続けば、生産拠点の海外移転と国内産業の「空洞化」を加速させかねない。

 「(投機での円高なら)耐えられない思いで憤りさえ感じる」。日本自動車工業会の志賀俊之会長(日産自動車最高執行責任者)は17日の会見で怒りをあらわにした。大震災で大手12社の国内工場ほぼすべてが操業停止に追い込まれた自動車業界。新興国向けなどの輸出拡大で業績が立ち直りかけていたが、円高が追い打ちをかければ、打撃は大きい。

 トヨタ自動車は生産停止に伴う減産台数が少なくとも9万5000台に上る。さらに国内生産のうち輸出の割合はほぼ半分を占め、1円の円高で年間約300億円の営業利益を失う計算。トヨタが11年3月期業績予想の前提とする想定為替レートは1~3月が82円。17日午後5時時点の円相場は1ドル=79円21~22銭と最高値からは円安に振れたが、それでも想定レートより3円近く円高だ。

 電機業界も大震災に苦しんでいる。日立製作所は少なくとも7生産拠点で再開の見通しが立っていない。キヤノンは10拠点で生産停止し、パナソニックやソニーも工場が被災。昨年夏以降の急速な円高を受け、各社は想定為替レートを円高方向に修正したが、80円台前半に集中しており、これを上回る円高が続けば、国内生産基盤への打撃は大きい。日本経団連の米倉弘昌会長は17日、「危機的な状況で目先の利益を得るための(円買いという)投機的動きに疑念を感じる。市場に強い倫理観と冷静な対応を求めたい」と訴えた。

 輸出産業の「円高耐久力」は以前より増している。85年のプラザ合意後の円高や日米貿易摩擦に対応するため、自動車業界は米国での生産拡大や人件費の安いアジアへの生産拠点シフトを進め、85年に6・8%だった海外生産比率は09年は56%に達した。円が79円75銭の戦後最高値(当時)をつけた95年は35・3%だったのに比べると、円高への抵抗力をつけている。また、多くの原料を輸入するメーカーには「原料費が安くなりプラスに働く」(日本製紙)面もある。高騰している原油や食料の輸入価格を抑えるメリットもある。

 さらに今回の円高が海外シフトを加速させかねない。東芝は09年、「1ドル=70円」を想定したプロジェクトチームを発足させ、海外生産比率を高めるなど円高が増益要因になる体制を作った。日産は昨年、タイで小型車「マーチ」の生産を開始し、日本への逆輸入も始めた。三菱自動車も12年の稼働を目指しタイに工場を建設中だ。

 ただ、製造業大手が海外シフトを進めるほど、国内での雇用が失われ、下請けの中小企業にも受注減のしわ寄せが及ぶ。日本商工会議所が中小企業を対象に実施した1月の調査では「円高で地元の自動車メーカーが海外移転することになり、受注落ち込みを懸念している」(部品メーカー)などの声が相次いだ。【米川直己、弘田恭子、清水憲司】

 ◇政府・日銀、介入慎重に判断
 円が戦後最高値を更新したきっかけは、震災や福島第1原発事故に伴う放射性物質の飛散に対して、欧州連合(EU)の高官が16日、「壊滅的な出来事が起こる可能性がある」と発言したことだった。同日のニューヨーク市場では、原発事故のニュースが伝わるたびに「世界経済に悪影響が広がる」との見方から、パニックに陥った投資家が、リスク資産である株式を投げ売り。安全資産とされる米国債などの購入に走った。米国債の金利は低下(価格は上昇)し、日米の金利差が縮小。ドルが売られ、結果的に円はあっさりと1ドル=80円を突破した。

 さらに取引の薄い17日早朝のシドニー市場では約1時間で3円も円高・ドル安が進み、あっという間に1ドル=76円台まで急騰。震災と原発事故に直面する日本の通貨であるにもかかわらず、円相場は1日で4円も急伸した。

 震災や原発事故の深刻化に伴い、市場には「日本の保険会社や企業が、震災に必要な資金を確保するため、ドル建て資産を売って、円を買う」(米大手証券)との見方が拡大していた。これに乗じたヘッジファンドなどが積極的な円買いを仕掛けたことも円高に拍車をかけたという。

 「保険会社による円買い」との市場の見方について、与謝野馨経済財政担当相は「日本の生損保がドル資産を円転換するといううわさは根拠がない。風評が投機筋から意図的に流されることは大変不見識だ」と投機的な動きを批判した。

 今回の急速な円高・ドル安は「短期的」との見方が多い。日銀の金融緩和は震災によって長期化が予想され、「利上げに動きつつある米欧との金利差が拡大し、円は中長期的に安くなる」(米資産運用会社)とみられるためだ。

 ただ、原発事故に対する欧米の警戒感は強く「投資家心理が落ち着くまで2~3カ月は円高圧力が続く」(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長)との見方も根強い。

 市場動向が見通しにくい中、昨年9月に大規模な市場介入を実施した政府・日銀は、円相場が最高値をつけても介入に踏み出す気配を見せていない。野田佳彦財務相は17日、「介入にはコメントしない」と述べるにとどめた。昨秋の円高局面で市場をけん制するために繰り返した「必要なら断固たる措置を取る」との「決まり文句」も封印した。

 政府・日銀の静観の背景には、未曽有の大震災に加えて原発トラブルが続く異常事態の中、金融市場が「神経質な動き」(野田財務相)を見せ、今後が見通しづらいことがある。日本経済への打撃は深く、「株、国債、円が売られる『日本売り』を招きかねない」(国際金融筋)事態だけに、市場の方向感に大きなショックを与える介入には慎重な判断が必要となる。

 18日朝には、先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議による緊急の電話協議が開かれる。日本は為替市場の安定化について各国の協調を取り付けたい考えだが、投機的な円買いを封じ込められるかは予断を許さない。【坂井隆之、和田憲二、ワシントン斉藤信宏】

 ◇実質実効レート、95年当時より影響小
 企業の国際競争力を測るうえで重視される実質実効為替レートでみると、円の足元の水準(3月1~17日までの平均値、市場推計)は105程度(2005年=100)で、名目の円相場が従来の対ドル最高値(1ドル=79円75銭)を記録した95年4月の実質実効レート(151・11)に比べ、3割程度の円安水準にある。

 実質実効レートは、貿易相手国との複数の為替レートを貿易額に応じて加重平均し、インフレ率の差を考慮した数値。デフレの日本に対し、相手国の物価が上昇すれば、相手国の製品は日本製品より割高になり、日本製品の競争力は相対的に高まる。これを反映したのが実質実効レートで日本は名目為替水準より円安になる傾向がある。95年4月より名目の円相場が上昇しても当時に比べ日本経済に与える影響は小さいとみられる。【清水憲司】

外為:円、16年ぶり戦後最高値 日本経済「三重苦」
外為:東京=17時 1ドル=79円21~22銭
円相場:政府、介入を検討 日銀が5兆円オペ実施
円相場:被災経済に追い打ち…投機マネー殺到
東日本大震災:円一時76円25銭…16年ぶり戦後最高値
毎日新聞 2011年3月18日 東京朝刊

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東日本巨大地震に端を発した金融市場の動揺を抑えるため、日米欧の先進7か国(G7)の財務相と中央銀行総裁による緊急電話会談が18日午前7時過ぎ、始まった。

 地震と津波による甚大な被害と、原子力発電所の爆発や高濃度の放射能漏れがもたらした深刻な事態に対する認識を共有し、米欧各国の支援で日本発の世界経済の混乱を防ぐ姿勢を確認する見通しだ。

 日本からは野田財務相と日本銀行の白川方明総裁が参加している。

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【パリ=古谷茂久】主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議による合意を受け、日本政府・日銀に続いて欧州各国の中央銀行も円売り介入に動き出した。英中銀イングランド銀行とフランス中央銀行は18日午前(日本時間18日夜)、円売り介入を実施したことを認めた。東日本大震災や原子力発電所事故の影響で急速に進む円高にG7が足並みをそろえ対応する。

 G7各国は日本時間の18日朝に電話会議を開催。外国為替市場への協調介入を実施し、一時1ドル=76円台に上昇して最高値を更新するなど足元で加速した円高を阻止することで合意した。G7による協調介入は2000年9月以来、約10年半ぶりとなる。

 欧州各国は伝統的に為替相場を中銀が操作することに対し否定的で、ギリシャの財政不安に端を発したユーロ危機の際も介入を見送った。ただ今回は円相場の乱高下が日本経済に深刻な打撃を与えかねないと判断、協調介入に踏み切った。各国中銀が直接介入する姿勢を金融市場に示すことで、相場の安定を狙う。

 各国中銀の円売り介入実施を受けて、18日午前のロンドン外国為替市場では円は急反落した。午前10時(日本時間午後7時)現在、前日終値に比べ2円70銭円安・ドル高の81円40銭~50銭で推移している。
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by akikonoda | 2011-03-18 08:23 | 記憶
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