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歴史序説をめぐって


イブン=ハルドウーンの歴史序説を読み始めた。

聖書やクラーンの成り立ちなど、すべてを鵜呑みにしない姿勢が見え隠れしてそこのところはおもしろいが、読み進むうちに、やはり、カリフを神格化しているというか、徐々に、あの人に限ってそんなはずはないと言う、歴史がその当時の人や後の人達に勝手に解釈され作り込まれて、いわゆる捏造されていく過程も垣間見れるようで、そういった捏造過程?の方が、かえっておもしろいような気がした。

例えば、歴史家達の根拠の乏しい作り話とイブンが笑い飛ばす物語に、「アッバース朝カリフ」ラシードによるバルマク家失墜の原因に関するものを上げている。

ラシードの妹アッバーサとラシードの家臣ジャアファル=ブン=ヤフヤー=ブン=ハリードとの恋物語である。

アッバーサは、アブドッラー=ブン=アッバースの子孫で彼とは4世代離れているだけである。

その間の先祖達は、アブドッラー以後のイスラームの最も偉大な人々と位置付けられている、「アッバース朝カリフ」ムハンマド=アルマフディーの娘で、マンスールは、「カリフの父」と言われるアリーの息子、ムハンマド=アッサジャードの息子である。そのアリーは預言者の叔父アッバースの子でコーラン註釈家のアブドッラーの息子であった。

したがって、アッバーサはカリフの娘であり、カリフの妹であり、王権と預言者の後継者の家に生れついており、マホメットと彼の叔父の教友の子孫で、その当時支配されていたペルシャ人の血を引く家臣ジャアファルと交わってアラブ貴族の身分を汚したと言われているが、実は、そうではなくて、バルマク家の失墜の本当の理由は、彼らがアッバース朝を牛耳り粗税収入を意のままにしようとしたからだと、イブンは語る。

歴史は物語られる時点で、血統やその当時の力関係が浮き彫りになり、別の意味も加えられていく。もっと、別の事情があるに違いないという期待と事実も含めての捏造があると言える。

確かに、ある人の身体を通った事象・現象は、その個人の見方やその当時の世相が反映してくるだろう。

そうして人々の共有部分が残像のように残っていくのだろうが、それが、あたかも事実として語られることの不思議さは、歴史物語に限らず、昔話や神話物語の根本性質であると言える。

歴史の根源に遡るほどイメージ性が強くなり、事実性は薄れるようにも思えるが。

一つだけ言えることは、すべてに通じるものは、物語るという作業なしには、全体像は見えにくいということであろう。

色々な角度から物事を見る作業は、今も昔も、そう変わらないことであるかもしれないが、やはり、その場にいないと分らない事実もあると思う今日この頃でもある。
by akikonoda | 2007-02-24 10:57
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