定撤回は県民の総意
軍官民共生共死の論理 文部科学省の教科書検定で、高校用歴史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」をめぐる記述から日本軍の関与を示す記述が削除された。県民の間に沖縄戦の歴史歪曲への強い懸念が広がる中で、「慰霊の日」を迎えることになったのは残念である。 沖縄戦では「軍官民共生共死」の論理の下で多くの非戦闘員が死に追い込まれた。各地で住民証言が収集され、「集団自決」は軍による強制・強要・命令・誘導等によって引き起こされたというのが戦後蓄積されてきた沖縄戦研究の成果である。 なぜ今になって日本軍の関与が削除されるのか、私たちは沖縄戦の実相を踏まえ、考えなくてはならない。 「集団自決」は県内の激戦地で起きた。渡嘉敷島、座間味島、慶留間島では住民が肉親に手をかけた。手りゅう弾やカミソリ、かま、棍棒などが使われ、阿鼻叫喚の地獄絵が広がった。多くの子供たちも犠牲になった。 渡嘉敷島での「集団自決」で両親と弟妹を失い、生き残った金城重明さんは、「母親たちは嗚咽しながら、迫りくる非業の死について、子供たちに諭すかのように語り聞かせていました。恐ろしい死を目前にしながら、髪を整え、死の身支度をしていた婦人たちの様子が忘れられません」(「『集団自決』を心に刻んで」、高文研)と、犠牲者らの最後の姿を伝えている。 沖縄戦から六十二年。世代交代が着実に進み、沖縄戦の体験者も年々減少していく。後世に生きる人々が沖縄戦の記憶をどう継承していくかが重い課題として浮上している。こうした問いに正面から向き合うことなしに沖縄の将来を切り開くことはできない。 県議会は「慰霊の日」の前日、検定意見を撤回し記述を元に戻すよう国に求める「教科書検定に関する意見書」を全会一致で採択し、文部科学省などへの要請行動を展開した。 「『集団自決』が、日本軍による関与なしに起こり得なかったことは紛れもない事実であり、今回の削除・修正は体験者による多くの証言を否定しようとするもの」という批判は、与野党を超えた県民の総意である。政府は県民の声を重く受け止めるべきだ。 日本軍の残虐性薄める 沖縄戦に関する教科書検定の経緯を振り返ると、政府にとって都合の悪い沖縄戦関連の記述を歴史教科書から消し去りたいかのようだ。研究者らが同様に指摘するのは、日本軍の残虐性を薄める方向での修正の動きである。 一九八二年度の教科書検定で、沖縄戦での日本軍による住民殺害の記述が削除された。しかし、県民の抗議の高まりなどを受けて記述が復活した。 そして今回は「集団自決」に関する記述について「沖縄戦の実態について誤解する恐れがある表現」として、日本軍による命令・強制・誘導等の表現を削除・修正するよう指示した。 文部科学省が、教科書を審査する教科用図書検定調査審議会に対し、日本軍の関与を示す記述の削除を求める意見書を提出していたことも判明した。 伊吹文明文部科学相は「軍の関与があったことは認めている。ただ、すべての集団自決について軍が関与したという記述は必ずしもそうじゃないんじゃないか」と述べ、大臣として検定には介入しない考えを示している。 文科省の審議官は検定調査審議会の中立性を強調し、今回の削除・修正は審議会の判断だとしている。 軍の関与は認めつつ、軍関与を示す記述の削除についても理解を示す。これは一体どういうことなのか。 首相の歴史認識を問う 安倍晋三首相は「戦後体制からの脱却」を掲げ、憲法改正、教育問題を重視してきた。「愛国心」重視の教育基本法を改正し、従軍慰安婦問題で「狭義の強制性」を否定した。靖国問題など首相の歴史認識が問われている。 今回の検定で「軍の関与」が削除されれば、住民は自発的に死を選んだという意味合いになる。そこには審議会による判断だという説明だけでは済まない大きな論理の転換がある。 沖縄戦研究者は政府は「集団自決」という言葉に靖国思想を意味する「殉国死」のニュアンスを込めていると指摘する。「今回の検定には文部科学省だけでなく政府筋の介入を感じる」という声さえ出始めている。 沖縄戦の記憶は今試練にさらされている。「慰霊の日」に犠牲者を追悼していくために、今回の検定問題を契機に沖縄戦の実相を究明し、沖縄戦についての認識をさらに深めていきたい。 沖縄たいむす〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
by akikonoda
| 2007-06-23 11:17
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