目にて言ふ 宮沢賢治

だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いているのですからな
ゆうべからねむらず
血も出つづけるもんですから
そこらは青くしんしんとして
どうも間もなく死にさうです
けれどもなんといい風でせう
もう清明が近いので
あんなに青空から
もりあがって湧くやうに
きれいな風がくるですな
もみぢのわか芽と毛のやうな花に
秋草のやうな波を立て
焼痕のある藺草のむしろも青いです
あなたは医学会のお帰りかなにかは判りませんが
黒いフロックコートを召して
こんなに本気にいろいろ手あてもしていただければ
これで死んでもまづは文句もありません
血が出ているにかかはらず
こんなにのんきで苦しくないのは
魂魄なかばからだをはなれたのですかな
ただどうも血のために
それを言へないのがひどいです
あなたの方から見たら
ずいぶんさんたんたるけしきでせうが
わたくしから見えるのは
やっぱりきれいな青空と
すきとほった風ばかりです
[PR]
by akikonoda | 2007-11-15 22:00
<< さむざむしい夜に 「国際的なテロリズムの防止及び... >>