今日、地元福岡の西南学院大学のチャペルで、「壊れゆく世界と、文学の役割」というテーマの、宮内勝典さんの講演をお聴きしてきた。 mixi内で、たまたま見つけた宮内さんのコミュニティを通してマイミクになって頂いたこともあり、見ず知らずの者にも、気さくで懐の大きな方だなと、うれしかったのだが、実際、生のお声をお聞きするのは初めてで、どのようなことを話されるか、心待ちにしていた。 以前、「焼身」を読ませていただいて思ったのは、どこか、ご自分の目で見てみないと気が済まないと言うか、その場に身をおいてみないと解らないあらゆることをひっくるめて感じた事を、身体内に貯めて書かれているのだろうなと言うことであったが、講演を聴いて、其の思いは強まったように思えた。 義勇兵のアメリカインディアンの方々と丸太舟に乗って、波やハリケーンをやり過ごしたりしながらカリブ海をゆきゆきて夜の航海をするというお話は、特にそう思えた。 昼間はどんぱちやっているので、夜を待つ。 救援物資を積んだ丸太舟を草薮等に隠しながら、時が来るのをじっと待つ。 其の時が来たら、懐中電灯で合図して、物資を待つ人たちがわらわらと海を泳いでやってくる。 そうして舟をみんなで川の方まで運んで、それから、救援物資を渡しながら、その中で、何が本当に求められているのだろうと思っていたと。 やはり、食糧や着るもの等なのかと思ったら、闘っている人たちは、物資の下に敷かれていたような新聞を隅から隅まで読みまわしていたと言う事をまのあたりにして、彼らは、活字に飢えていた事に気づいた。とおっしゃっていた。 又、闘いの中にあって、どこか気配のようなもので危険を察知し、さりげなく宮内さんをガードするようなデリケートな感覚を待った方達であったと。 宮内さん自身も、暗い海の側で、見つかったら殺されかねないような草薮の中で、息をひそめている気配を感じれるような、「野生」の感覚を持ち続けようとされている方だと思いながら、そういったことを、いまそこで潮臭くなった新聞を薪の前で、読んでいるような感覚でもって、お聞きしていた。 これが宮内さんの物語の人を通じた生の伝え方なのだと言う事が、すこしだけ解った気がした。 さらに、興味深かったのが「時間軸の喪失」についてのお話であった。 悲劇的な内容の番組の最中でさえ、まったく関係性のないコマーシャルが小刻みに侵入してくるような、分断されていく時間を日々過ごしているともいえる昨今の世界では、「時間軸の喪失」のようなものが起こり、その時間軸を分断された、関係性や意味性を考える間もなく過ぎていってしまうような喪失(あるいは一貫性?の欠如)が、文学にとっては致命的なことで、それと連動するように、文学の崩壊をも招いているのではないか。とおっしゃっていた。 確かに、文学の崩壊は「直ぐそこ」でも、「今ここ」でも起こっているのかもしれないし、すでに文学は終わったと言われているにせよ、それでも、文学は終わりようがない(終われない?)。とおっしゃっていたのが印象に残っている。 意識はどことなく文学に似ていて、(身体性をも持つ?)意識を表せるのは、宮内さんにとっては、文学しかないと思われたという事であった。 文学の役割はまだ見えていないが、(御自身には)文学しかないと言う覚悟のようなものを、お聞きして、勇気づけていただいた気がした。 最後に、持ってきていた「焼身」に、すっとのびやかで美しい文字で、 犀の角のように ただ独り歩め という言葉を認めていただいた。 本当に有り難うございました。
by akikonoda
| 2008-10-12 15:38
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