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「環境整備」

 受験勉強の傍ら、自活しないと生きていけないという事で、従姉妹の姉さんが紹介してくれた仕事が、あまりに澱んで濁っていたので、自分は今にも狂い死にしそうなほど、退屈していたのであった。

 パチンコ業界のオーナーが雁首をそろえる場として存在するような「遊技場組合」の事務の仕事はあきれるほど時間がのろのろと過ぎていき、自分だけが動かないで、何かが自分の周りで動き出している気がして、その呪われた亀か、亀の呪いのような歩みの時間の中、射幸心を煽る、横たわるピンボールから立ち上がって進化したと言う、猿からチンパンジーかゴリラになったくらいの進化のパチンコで、目まぐるしく釘を刺すように玉をはじき出しては、プラスチック製のチューリップの穴に落ち込んでは、はあはあ息使いを激しくしている中年女か男のように、糞寒い時間を過ごしているのだ。

 それまでは、なぜ、自分はそこにすんでいる人や地域と交わる事が出来ないのか、自分にはどこか欠陥か薄汚い空洞がありすぎるのではないかといった、自分自身の中にあるそこの見えないけばけばしい偽物の穴に落ち込んだ小さな銀玉の、八方ふさがりの状態で、そこを見るかぽっかりあいた穴の小さな歪な空洞を見る事しかできないような立っていても座っていても、あがきにもならないような状態であった。

 それはおそらく今もそれほど変わっていない事なのであるが、ただ、自分で食べていけると言う世知辛い事実だけが、辛うじてそこやここで「健康診断」をしている理由でもあった。

 事務といっても、パチンコ台に貼付ける100〜200円くらいの金色のシールを買いにくるパチンコ店の店長か従業員の人にそれを渡し銀行に行って管理する事と、オーナー達が集まる毎に、そこで集められたお金や各店舗の出資金のような組合費で、お茶を出し、警察官や政治家との集まりがあると言っては、そこからお金を出して、盆暮れに付け届けをし、選挙の前か後かは知らないが、政治家のパーティー券を出すというところが主な仕事内容であった。

 そこの事務局に、死んだブルドックのような目が濁っている警察署長をしていた人が天下りしてきた。
 持ちつもたれつのなれ合いの場という訳である。

 今度の集まりでは一万円くらいの芸者さんかコンパニオン呼んどいて。

と、ちょっとそこまでとタクシーでも呼ぶみたいに、元署長が言うのを、十万円ちょっとくらいの安月給で九時から五時まで働いている古株の中井というおばさんが苦々しい顏を歪めながら、


 はい、わかりました。


 と、手配の電話をするのである。

そうして、お茶を入れる為に狭い台所に入って、言うのである。


 前に入ってた若い子すぐやめちゃったんだよね。これじゃあ。若い子には勤まらんよね。


と、若い子のせいなのか、「これ」のせいなのか、よくわからない話でお茶を濁していくのである。

 その子がさ、以前、務めていたところもおんなじような処だったってよ。
 社会福祉協議会って処だけどさ。


 それなら、以前、人に聞いた事がありますよ。いたたまれない。間が持たないって。
 でも、その人は、「総花角会」という宗教団体の人で、そこに口利きで入ったって感じで、そういう事業も、口利きって大きな力を持ってるって実感しましたよ。
 実際、従姉妹の姉さんの口利きで、ここに来ている自分が言うのもなんですが。


 社会福祉協議会の理事もやってるんだってパチンコ業界の県の組合長さんも言ってたわよ。政治家みたいに弁の立つ人じゃない。山戸(やまと)さんって。昔、シベリアで捕虜になったって言ってたでしょ。
 でもさ、なんでもさ、社会福祉って言えば、いいと思ってるんじゃないの。政治家や業界の人たちって。


 確かにそうですよね。
 山戸さんは、社会福祉協議会の仕事は名誉職みたいなものだって言ってましたしね。社会福祉。福祉国家って言えば、聞こえはいいし、見栄えもいいでしょうから。


 どうどうと人のお金で芸者さんやコンパニオンやスナックやバーのお姉さんを呼べだの、飲み食いを払ってもらえるんだからさ。領収書ひとつをこちらに廻せばいいだけだしさ。ねえ、頼むよって。子どもみたいに甘えられてもね。夜の街で飲んだくれて甘えられて、土下座されてもいやだよね。


 せせこましいくらい小さ過ぎますが、積もればそれなりに大きくなるのが、飲む事と食べる事と女と男ですよね。実のところ、人の生活の最も大きな部分を占めているから、なおさら質が悪いんですよね。


 それは本当に目に見えやすい、分かりやすいところでさ。
 あの人達の給料も馬鹿にならないからさ。私たちは十万円そこそこでも、あの人達に雇われている事務局長は桁が違うもの。年収何千万円はもらえるの。
 その上、退職金まで出るからね。私たちは自分で積み立てしなくちゃいけないけど、あの人達には、ポンとお金が出るのよ。どこから集めたか知らないようなお金がさ。


 それは、遊技場のオーナーが出すんですよね。


 組合費から出るんだとは思うけど。
 オーナーには朝鮮半島の人が多い。北朝鮮の人が2か3だとすると、5ぐらいは韓国の人であとは日本の人って感じかなあ。


 北朝鮮出身の秋多さんが今年の市の組合長だけど、そういえば、あの人には、名前で呼ばれた事がありません。おいっとか言われて、手で呼ばれたりするの、無性にいやですね。

 
 ちょっと、気難しいからじゃない。子どもさんが言ってたよ。この前の組合の忘年会でさ。たばこを吸うにもオトウサンの前では絶対吸えないって。それほど、こわいんだってさ。お金があると、そうなってくるんじゃないの。だれでもさ。


 そういえば、最近、あの人の店の近くで、住民の人が学校か、病院の側にパチンコ店を作るなと言って環境整備の問題が起こっていたじゃないですか。PTAの人たちが意見書と署名運動を起こして来たって。

 
 そうそう、それで、たぶん、ぷりぷりきてるのもあるのよ。
 でも、やっぱり、いやじゃない。きれいごとではすまないもの。
 自分がこんな事務の仕事してる手前、大きな声では言えないけどさ。
 自分の子どもが朝からパチンコやるなんて考えるとぞっとするよ。
 年配のものの前で煙草吸うなどころのことじゃないよ、礼だの義だのと平気で言ってること自体がおかしいじゃないよ。
 暇か生活のかかっているパチプロが朝からパチンコして、射幸心を煽るなと警察が言うだけ言うけどさ、結局、黙認でしょ。
 天下りしてる訳だし。大きな声では言わない訳よ。持ちつも持たれつなんだから。
 おかしな世の中だよね。
 政治家はパーティ券握られて、利権に動くだけでしょ。

 生きる権利があるんだってさ。

 いったい誰の生きる権利なんだろうね。以前からそこに住んでいる人には、はた迷惑なだけでさ。生きてる気がしないようなのにさ。
 うるさいだけで。
 タバコの脂が蔓延るだけみたいでほんとうにうんざりしてくる。
 韓国では規制されてるんでしょ。パチンコって。
 ばかにしてるじゃない。
 日本ではどうぞって。どういう事よ。

 
 はあ、確かに。
 そういえば、この前、釜山の射撃場で日本人ツーリストが射撃で遊んでいる時に火事になって亡くなってたですよね。


 そうそう、そうなの。
 パチンコはだめでも、射撃はオーケーって国でもある訳よね。韓国って。
 しかも、日本人、韓国人が入り乱れていたなくなった方々の中で、拳銃の弾が見つかったっていうじゃない。
 この前、ニュースで言ってたの。
 びっくりした。だって地元の人なんだからさ。
 しかも、そのツアーは、「冬のあなた」って言う韓国のドラマの撮影スポットツアーを組んでいる観光会社が主催って言うじゃない。怖いわよ。いつの間にか「あの世のそなた」になってる。なんて冗談にもならない寒々しい事ばかりでさ。
 けじめを付けてほしいよね。きっちりと。すみません。って。政府が土下座しろってくらいよね。
 人に謝罪ばかり求めるのは、中国や韓国がかつての日本に求めるように、日本がアメリカに求めるように、誰がしたところで、厭な事だけどさ。
 でもね。そのツアーも仕組まれてたら怖いわよね。「四菱商事」いや確か「角紅」の子会社の人たちが参加したツアーらしいから、なんだか、武器商人の下見ツアーって感じがしない?
 私の相変わらずのかも知れない話で、誰がきいたところでホラ話にもならないって感じだけど。


 中井さん。それなら、「諸君」か、朝日か読売か毎日新聞の読者欄にでも、その「爆弾発言」を送りつけたらどうですか。
 こっちは丸腰で、ギャンブル向きではないし。お金もないですし。
 平和賞か文化賞なんかを目星をつけた人たちに授けて、罪と罰とお金でお茶を濁しているノーベルさんの作った爆薬もない訳ですから、とてもじゃないが太刀打ちできないですし、声の大きさは違いすぎますし、それこそ訳もなく、拳銃の弾に狙われたら「あの世のそなた」は覚悟しないといけませんがね。
 

 と、苦々しく思いながら、やたらと苦々しい入れたばかりの安いお茶を啜ると、その古株の中井と言う人は、既に廃刊になってしまった「諸君」を愛読書にしており、話し出したら、止めどもなくなってくるきーきーした声を、呆然と聞いているのにおかまい無しに、畳み掛けて来た。


 書きたくても、食べていけなくなったら困るしね。
 それにさ、パチンコの玉を持って、換金しているのを見て見ぬ振りの警察でさ。
 あんたら、みんな違法でなくて何が違法なのって感じよね。
 まだ、ロシアのプーチンさんは利口よね。賭博禁止令出したって言うじゃない。中古の日本車を締め出すのはどうかと思うけど。
 ボロッカスに負けるのを、ほくそ笑んでいるオーナーが、あんなに高級車乗り回して、おっきな家何件も持ってさ、若い女を侍らせて組合の慰安旅行にやってきたりさ。
 そんなところなんて見たくもないしね。
 あのオーナーってさ、あのコンカ・コーラが日本に入ってくる時に、半分くらい株買わないかって持ちかけられたらしいけど、断ったって。
 もし株主になってたら、いまごろコンカ・コーラに君臨してたかもね。
 パチンコ業界、恐るべしやね。
 お金のあるところに、話も人も行くって言うのは確かだよね。
 事務をしている私が言える事じゃないけどさ。
 他の人からすれば、安月給の同じ穴の狢ってことだしね。
 


 山戸さんとその仲良しクラブの面々のよく行くゴリラと言うスナックで、山戸さんの女と言う年増女に色目を使われて、ぞっとした事がある自分であったが、コンパニオンの女の子にも、軽くあしらわれるだけで、粋とはほど遠い、芸者さん等論外という感じの扱いなので、まったく縁がないのは、お金がないと言う事だけが理由でもないような気がした。


 そこにいたくない。
 ただそれだけのことなのだ。
 安いか高いかよくわからない酒を浴びるように飲んでいる人の横で、話が通じずにじたばたともがき、横でどうでもいいとばかりに煙草をすぱすぱと吸われ、名前を呼ばれる事もなく、手招きをされるような、そこの濁りきった吐き気をもよおす場が、厭なだけのことなのである。 


(続く)
 
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by akikonoda | 2010-01-13 09:12 | 小説

「環境整備」

 ある老人からその話を聞いたのは、ついこの間の事である。

 そもそも、彼と出会ったのは、電信柱が古くなったので、取り替え工事が行われている川沿いの道の上であった。

夕暮れ時で道路標識に気づく事もなく、私が一方通行の道と知らずに、近道であるその道を友人から借りていた軽自動車で通ろうとした時の事であった。

その老人が、すでになくなってしまった電信柱の代わりを務める「人柱」のように、道の脇に立っていた。

老人は白濁しかけた目を鈍く車のライトに光らせて、ヌラリと立って。

そうして、車の中にいる私に向かって何やらつぶやいていたのである。


 ここを通ったらいかん。いかんと言うとろうが。


というそのヌラリと立ち尽くしたまま繰り返す声が聞こえて来た。


 もう道の半ばに差し掛かっていたので、引き返す事もかえって困難であったが為、その老人の濁った目を見たり見なかったりしながら会釈し、おずおずと首をすくめながら、老人との距離を推し量るように、注意深くゆっくりと前の方へ進んで行った。 

 
 知らなかったので。すみません。


 夕方の空気を取り込もうと半開きにされていた窓から、申し訳程度の言葉を漏らしながら、老人の横をかすめて行ったが、その老人には、聞こえたのか聞こえなかったのか、よくわからないままだった。

 老人の目の色が暗闇にまぎれて少しだけ黒みを帯びた色を差したような気がした。


 それからしばらくして、空港近くの環境整備団体の事業の一環として、毎年のように、無料の健康診断が巡回されてきており、自営業のものや、老人・主婦等がぞろぞろと列をなして、公民館に集まって来ていた。

 前もって、日時を提示され、食事を控えるように指示されているが、その他は、ゆるやかな検査が待っているだけで、1時間くらいの検査で終わると言う類いのものであった。

 それでも、病院で検査をするよりも直接地域に機材を持ち込んでの検査を実施すると言う手軽さや、時間も費用もかからないということも手伝って、毎年、多くの人が詰めかけるということであった。

 ここに住むようになって、二、三年しかたっていない独り身の浪人生の私であったが、道端の地域の掲示板にその知らせが載っているのを知り、誰でも受けられると言う事もあり、興味本位と受験勉強ばかりで、何やら、注意散漫になりがちな自分の身体の節々にある澱のようなものを感じていた事もあり、その澱の正体を、目に見える範囲で数値化してみたくなり、行ってみる事にしたのであった。


(続く)
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by akikonoda | 2009-10-29 10:10 | 小説