板付遺跡に弥生人の集落の跡がある。
そこに、まばらに点々と、わらぶき屋根の竪穴式住居が復元してある。 子供達はキャンプ場に遊びにきたように駈け回る。 集落の周りには堀が巡らされ、外部からの安易な侵入を拒んでいるようでもあるのだが、入ろうと思えばいくらだって入れる代物で、人間と言うよりも、小動物に集落を荒らされるのを防ぐ為と思われる。 その掘りの外部には、日本で稲作が始められた頃、初期の段階の田んぼの一つと思われているものがあるが、この前、その田んぼに足を踏み入れ、田植えをした。 『チャーリーとチョコレート工場』で流れているチョコレートの河のように、泥はとろとろにとろけていた。 なんと柔らかい茶色い液体なのだろう。本当に食べられそうな気がした。その空気や水と緩やかに混ざり合った泥なら、なんだって作れそうな気がした。 ここから、米でなく、人間が出来ることを想像した。 SF魂を駆使して、日本を沈没させるのでなく、人を浮き上がらせる。 小松左京の短編『飢えなかった男』がわりと好きだったが、人間と植物の融合というより、人間と泥の融合。 短編の名前は『どろん虚(どろんこ)』。べたすぎる。虚無回廊に迷い込みそうだ。 ここで、一詩。 稲穂 土器酒を捧げ 白い花を飾る とろとろの甘露の泥の中 蓮の子らが蠢く 甘露の泥濘るみ 蓮の子の足跡を残す 弥生人の足跡の上 蓮の子は立つ その足跡どもを均して おばあの植えた 一握りの緑の稲穂 すっくと立つ 弥生人と 蓮の子の 足跡を貫いて すっくと立つ 水と空と太陽と泥から すべてははじまり すべてはおわる 稲穂は酔っぴいて踊る そんなこんなしながら、夏休みということもあり、ちょっと、毎日のあくせくを忘れて、古代に思いを馳せに、古代エジプト展に行ってみた。 ちょうどその日、セヌウのミイラを掘り当てた早稲田の名物客員教授の吉村さんがしゃべくるというので、ちょっと、聞きに行ってみた。 吉村教授はイスラム人のように口ひげをはやし、エジプト柄の黄色いネクタイをしていた。 ネクタイ屋とコラボレートしているそうだ。 「なんせ、墓掘りには費用がかかるので。ボクはその資金を集める為にならナンでもしますよ。黄色はエジプトでは黄金と同じ意味があるのですよ。王族しか使えない高貴な色なのです」 そういう吉村教授。かなり、色々なことに手を出しているようである。 今度、福岡でのおりんぴっく開催を目論む?人々にも絡んでいるのかもしれない。 サイバー大学構想を掲げている地元出身の孫さんに誘われて、そこの教授をする為に、早稲田をリタイアされるようだし。 東京とオリンピック誘致合戦の最中である、開催会場の開発の候補地で、汚職絡みでケチが付いてしまい、誰も手が出せない状態の福岡のアイランドシティに、てこ入れしようとしているのは、政治家だけでなく、経済効果を期待して色々と後押しできる地元ソフトバンクホークスの孫さんも控えているようなので、彼らとの繋がりで、今後どうオリンピック会場や経済が動いていくのか、注目したいところである。 吉村さんはスポークスマンにはうってつけだ。強気だし、エピキュリアンを自負しているし。 セヌウのミイラを見つけた時も、一緒に作業をした地元の作業員には、とぼけて、なんでもないと言って、色々手はずを調えて、全世界に発表したと言うから、結構、やりてである。それには、色々と訳もあるらしいのだが。 直接、墓掘りに従事している人達は、手を出さないにしても、その家族や、情報をせしめた地元の盗賊が、襲撃してくるのをだまくらかす為なのだという。 それくらいの器がないとやっていけないのはよくわかる。 なんせ、いつでてくるか、何時までたっても出てこないかもしれないものに命を懸け、お金をかけ、時間をかけ、労力を賭け続けるのだから、タフになるのは必然だろう。 「やたらと、まじめな人は向いてないんですよ。この仕事には。のらくらできるくらいじゃなきゃ」 吉村教授はにやにやしながら口ひげをなでて言った。 それから筆者が昔住んでいた宗像のことも、急に思い出したように話し出したので、驚いた。 「地元のひとはあの価値が分っていないみたいなんですよね。あ〜、そうですか。みたいな反応で。でも、自然と融合した生活を今もしている感がありますよね。漁師さんなんか、成長し切っていない魚は海に帰すと言う習わしらしいです。ボクがせっかく福岡にくるのだし世界遺産になるように働き掛けようかなと」 等と若手のアナウンサーの方はお構いなしに一人しゃべり続けていた。 確かに、三人の女の神様が祭られていて、日本神話の初期の頃に出てくるかなり重要な神々だと言うことは聞いているが、天岩戸伝説のような、逸話、武勇伝?には乏しいので、ジミと言えばジミな神々である。本殿にはいつも人がいるが、そこそこ広い敷地なので、誰もいない場所はいくらでもある。そこを巡るのがなかなか面白い。神が下りてきたといわれる場所もちゃんとあるし。 「ここです」 と看板が無いとわからないような、砂利が敷き詰められていて、周りは木の柵が巡らされているだけのがらんどうの場所だ。 子供の頃、木々ばかりで他に何も余計なものが無い、静かに涼むには持ってこいの場所だったので、結構お気に入りの場所として散歩がてら訪れていたのであるが、あそこを離れてからほとんど行ってないので、その後どうなったのか分らない。 しかし、「何もない」ということは、見えない神々との対話には、叶ったりな場所である気がした。もちろん、いればの話だが。 とりあえず、日本の神話においては、神々とは、原初の人であり、その記憶の在り処、よすがとして神話が語り継がれていると自分は思っているので、かりに、そうだとすると、今息づいているもの、すべて神様の末裔ということになる。 本命と言われてる天皇だけでなく、お客様も神様。あなたも私もかあ〜みさまなのかあ? なんでもありで、ありがたや、ありがたや。である。 さて、エジプトの神様に最も近い、王様やその周辺の人達のミイラや掘り起こされた品々は、今偶然この福岡にある。吉村教授が発掘しなければ、ここには無かったものである。福岡のあらゆる方面からお声が掛かってはるばるここに呼ばれてきてくれたのは、やはり、ありがたやである。 そう思いながら、永い眠りを越えて、人の目にさらされるとは思いも寄らなかったであろう、セヌウのミイラと仮面、黄色い棺をじっとみた。 棺にはウジャドの目が描かれていた。死んだ人が、狭い棺の中から、その目でもって世の中を見渡せるように、描かれていると言う。 暗い博物館の中、しばらく見つめ合った。 何千年のまなざしは、瞬きせず、今のまなざしと交差した。 お目覚めですか。セヌウさん。 墓掘りの意味はなんでしょね。 ミイラになった意味はなんでしょね。 神のようになったセヌウさんは、あんまり周りが騒々しすぎて無言のままである。 米の肥やしになって、この世の中を巡って、私達の血肉になって、また泥に帰る弥生の目がほしい。と思った。
by akikonoda
| 2006-08-21 13:25
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