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『どろん虚』

13 核の脅威

 核の脅威が迫っていた。

 日本は北朝鮮と韓国の統一国である大韓朝国と、一発触発の危機に直面していた。大韓朝国が核攻撃をちらつかせているという知らせが道造のいるルシファーの砦にも届いてきたのだ。

 ルシファーの永遠平和の宣言も、吹き飛ばすつもりなのかどうかは分らないが、大韓朝国は、統一後も内乱が後を絶たず、その矛先を隣国のかつての敵国である日本に向けているとの情報であった。
 
 もうすぐ、宇宙に飛びだすつもりだった道造だが、お婆を置いて行くのがやはり不安であった。そうかといって、お婆を連れて行くことも出来そうにない道造は、迷っていた。

 もう一度、お婆に会って、何か、言いたいこともあるようにも思ったのだ。
 その場にならないと分らない気がしたのだが。何か、言わなければならないような気がしたのだ。

 まだ、手紙の返事が来ていないのも気になった。お婆のことだから、気にもしないで、そのままにしているのだろうが、いざ、本当に会えなくなるとなったら、何かか疼いてしょうがないのだった。

 まあ、お婆のことだから、なんとかなるとは思うが、あの桑の木や田んぼが、忽然となくなるかもしれないと思うと、自分もこの世になくなってしまうような気がしてならないのは確かだった。

 あの場所があったから、道造は道造になったのだとも言えた。

 今ここいにる道造は、もう一人の実体としての道造を取り残してきた、虚像のようなもののような気がした。あそこの俺がいなくなったら、今ここにいる自分も、いなくなってしまうような気がしたのだ。
 
 かつて北朝鮮と韓国に人々が引き裂かれたのと同じような感覚かもしれないな。と、何となく思った道造であった。

 それにしても、統一後には、日本を標的にし、一致団結を促そうとする動きには、馴染めなかった。

 日本にいる同胞と呼ばれ、遊技場や自営業などで、何とか日本で生き残る為に、あくせく働いて、送金している祖国出身の人もひっくるめて標的にするのは、なんとも言い難い矛盾を抱えているとも思ったのだ。

 彼ら彼女らは、日本の防衛軍のOBの、いわゆる天下り先として、遊技場組合等に受け入れて、飼いならし、上納金代わりにしたり、防衛軍のめんめんを、女の子の蔓延る宴会場に接待し、飲み食いをさせて、日本の古くからの風習の、お中元やお歳暮を主要な担当のものには欠かさず送り、防衛軍を飼いならしながら、祖国に送金していると言われているのに、それはないだろうというものだ。

 そのお金で、軍備増強を謀り、逆に標的にしてしまうとは、自分で自分の首を絞め、自分で自分の働き手を切り落とすようなものだ。
 
 道造の死んでしまった父親の言うことには、遊技機に一枚何円かのシールを買わせて、そのお金は、どこに流れているかも分らないと言うし、闇の秘密は、防衛軍の周辺をすっぽりと包んでいるようだった。

 ここでも、むしゃむしゃと喰われているのだ。金のなる機械を使って、人間や金を食い物にしている。
 遊んでいるつもりが、遊ばれていることに気づかなくなる、境界はどこにあるのだろう。

 道造は不思議だった。萌学に没頭する自分が皆から変態と呼ばれることに、それ程、抵抗はなかったのだが、遊びの境界を知らないというか、見失ったものが、その行為自体に飲まれて遊ばれてしまうことには、相当な抵抗を感じていたのだった。

 自分も、本当は萌学やお婆の毒にあてられているのに、いつまでも気づかない、道造であった。
by akikonoda | 2006-10-03 22:06
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