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対話

発信箱:敵との対話=福島良典(ブリュッセル支局)

 子どものころからホラー映画が苦手だ。「えたいの知れない」登場人物(時には怪物)が突然現れ、「次に何が起こるか分からない」瞬間ほど身の毛のよだつものはない。

 未知が恐怖を呼び起こすのは、人間関係も、国際関係も同じだ。初対面の緊張は相手を知らないためだろう。気心の知れた仲間は「味方」だが、素性不明の存在は「敵」かもしれない。

 「敵の敵は味方」の考えを実行に移してきたのがイスラエルだ。アラブに対抗するため親米王政時代のイランと手を組み、イスラム革命後のイランが脅威になると対イラン不信感の強いアゼルバイジャンに接近した。

 だが、戦術偏重の外交は必ずしも成功していない。正面から敵と向き合い、対立を解く努力を避けているからだ。

 転換の試みだったのは、仇敵(きゅうてき)・パレスチナ解放機構(PLO)との和平合意(93年)だ。「人が和平を結ぶのは友とではなく、敵とだ」と故ラビン元イスラエル首相は力説した。

 中東和平を推進した元首相が極右青年の凶弾に倒れてから13年余。ブッシュ米政権は最後までイラン、シリアとの本格対話に乗り出さず、イスラエルはイスラム原理主義組織ハマスを交渉の相手と認めていない。

 閉塞(へいそく)感漂う中、オバマ新米大統領が対話外交を掲げさっそうと登場する。クリントン次期国務長官はブッシュ大統領が「悪の枢軸」と呼んだイランに「新しい手法で臨む」と宣言した。

 対話を通じて等身大の相手を知る試みだ。だが、目的は対話自体ではなく、より安全な世界の実現だ。時には圧力も必要になる。そのさじ加減が外交の妙。お手並みを拝見したい。

毎日新聞 2009年1月19日 0時09分
by akikonoda | 2009-01-19 12:23
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